子どもの頃、横浜で買い物をするたびに目にしていた、喜久家洋菓子舗(きくやようがしほ)の「ラムボール」。評判のお菓子だと聞いていながら、洋酒がしっかり効いているという理由で、わが家にはご縁のないお菓子でした。
そんなラムボールと再会したのは、ずいぶん大人になってから。古くからの友人が「美味しいから」と届けてくれた一箱で、私はようやくその味と出会うことができました。
この記事では、喜久家洋菓子舗「ラムボール」の歴史や味わい、購入方法をご紹介します。あわせて、子どもの頃にはご縁のなかったこのお菓子と再会した日のことも、少しだけお話しします。
今夜のおやつは、喜久家洋菓子舗「ラムボール」。
子どもの頃はご縁のなかった、大人になってその理由がわかるお菓子のお話です。
☕ この案内帖でわかること
- 喜久家洋菓子舗「ラムボール」って、どんなお菓子?(歴史・製法)
- ラム酒はどれくらい効いている?
- 買い方(通販がない、というお話も)
どうぞ、あたたかい飲みもの——今夜は、少し苦みのあるコーヒーでも片手に、ゆっくりお付き合いください。
窓の外は、静かに雪の気配。冷えた空気が、ガラス越しにひんやりと伝わってきます。
閉店後の「喫茶と酒処 まるさん」。片づけもひと段落して、三人だけのお茶の時間が静かに始まります。
カウンターに置かれたのは、バラ柄の箱。開けると、茶色いまんまるのお菓子が、行儀よく並んでいました。

今夜のお菓子は、これです。横浜・喜久家洋菓子舗の『ラムボール』。

初めて見ました。……シンプルですね。

本当だ。でも、なんだか気になる見た目です。

私も、子どもの頃はそう思っていました。母に『お酒が効いてるから、うちはダメね』と言われていたお菓子でした。それでも、大人たちは迷わずこれを選んで買っていく。不思議で仕方なかったんです。

ずっと気になっていたお菓子だったんですね。

いえ、それが——長いこと、存在すら忘れていたんです。古い友人が『美味しいから』と、持ってきてくれるまでは。

その方は、どうして持ってきてくれたんですか?

美味しいものに出会うと、誰かにも食べてもらいたくなる。そんな人でしてね。……今なら、よくわかる気がします。
喜久家洋菓子舗「ラムボール」とは?
ラムボールは、横浜元町にある喜久家洋菓子舗の看板商品。1924年(大正13年)の創業以来、長く愛され続けているお菓子です。
創業者は、もともと日本郵船の客船でパン職人・料理人として働いていた人物。ヨーロッパ航路で持ち帰った各国のレシピをもとに、元町でお店を開いたのが始まりだったそうです。ラムボールも、そうして持ち帰られた異国の味をもとに生まれたお菓子のひとつと言われています。
生まれた当初は、天板で焼いた生地を四角く切り分けて販売していたそうですが、昭和10年代に今のまんまるな形になったのだとか。丸くなった理由は、今でははっきりとは残っていません。けれど、その姿のまま、長い年月を愛され続けてきたことだけは確かなようです。
見た目に飾り気はありません。けれど、その素朴さのままで、100年ものあいだ選ばれ続けてきました。それこそが、このお菓子の何よりの説得力なのだと思います。
子どもの頃はご縁がなかった。だから今、ラムボールがおいしい。
子どものころ、私にとってラムボールは「よくわからないお菓子」でした。
母と横浜へ買い物に出かけるたび、高島屋の地下入口のすぐ脇には、喜久家洋菓子舗がありました。ショーケースのいちばん目立つ場所に置かれているのに、まわりを彩るケーキたちのような華やかさは、どこにもありません。茶色一色。まんまる。それだけ。
「これは、横浜で有名なお菓子みたいだけどね。お酒が効いてるみたいだから、うちはダメね。」
母はそう教えてくれました。
なのに、大人たちは迷わず、それを選んでいく。
「なんで、あっちのきれいなケーキじゃなくて、これなんだろう。」
子ども心に、そう思っていました。うちでは食べられないお菓子を、大人たちは当たり前のように選んでいく。大人の世界には、自分にはまだわからない基準があるらしい。そのことだけが、うっすらとわかっていました。
——それから、ずいぶん時間が経ちました。
古くからの友人が、「これ、美味しいから」と持ってきてくれたのが、ラムボールとの再会でした。友人は、美味しいものに出会うと、それを一人で抱えてはいられない人です。誰かに伝えたくて、分けたくて、気づけば持ってきてしまう。
バラ柄の上品な箱を開けると、そこには、子どもの頃と何も変わらない姿のラムボールが並んでいました。
ああ、あの頃、大人たちが選んでいたのは、このお菓子だったのか。
友人が、あの日このお菓子を届けてくれた理由も、今なら少しわかる気がします。
待つ時間も、このお菓子の楽しみ
ひと口いただくと、ラム酒の豊かな香りがふわりと立ちのぼります。
しっとりとした生地には、ラムがゆっくりと染み込み、まわりのビターチョコレートが全体を静かに引き締めます。
そのままでも、十分。
それでも私は、いつもひとつだけ我慢していることがあります。
それは、買ったその日に食べきらないこと。
冷蔵庫でひと晩休ませると、生地とラム酒、チョコレートがさらになじみ、味わいがぐっと落ち着いてきます。
派手に変わるわけではありません。
けれど、「昨日より今日のほうが好きかもしれない。」
そう思わせてくれる、小さな変化があります。
美味しくなるのを待つ時間まで含めて、このお菓子の楽しみなのだと思います。
保存は要冷蔵。賞味期限は購入日から1週間ほどなので、手土産としても、自分用としても扱いやすいのが嬉しいところです。
こんな人・こんな場面に
喜久家洋菓子舗「ラムボール」は、こんな方にこそ味わってほしいお菓子です。
こんな人におすすめ
- ラム酒や洋酒の効いたお菓子がお好きな方
- 見た目の華やかさより、長く愛される味に惹かれる方
- 昔から変わらない味に、どこか安心を覚える方
こんな場面で
- 一日の終わり、自分だけの静かな時間に
- 少し苦みのあるコーヒーや紅茶とともに、ゆっくり過ごす夜に
- 自分への小さなご褒美を楽しみたい日に
- 長く愛される味に、そっと触れてみたくなったときに
知っておきたいこと
- ラム酒の香りがあるため、お酒が苦手な方や小さなお子さんには向かない場合があります。
- 個包装ではないため、取り分ける際は少し気を配ると安心です。
- 賞味期限は購入日から約1週間。要冷蔵です。

地味なお菓子、と思われるかもしれません。……でも、100年選ばれ続けてきたということは、それだけで、なによりの証だと思うんですよ。
購入方法
喜久家洋菓子舗「ラムボール」は、横浜元町の本店のほか、横浜駅・相鉄ジョイナス店でも購入できます。
少し珍しいのは、ネット通販を行っていないこと。お取り寄せ(代金引換)をご希望の場合は、元町本店へお電話で注文できます。
▶ 喜久家洋菓子舗 元町本店 TEL:045-641-0545
今では、何でも気軽にお取り寄せできる時代になりました。そんな中、電話で注文するという少し昔ながらの方法も、このお店らしさのひとつなのかもしれません。
価格(税込・2026年7月中旬 横浜駅・相鉄ジョイナス店にて確認)
| 個数 | 価格 | 備考 |
|---|---|---|
| 1個 | 411円 | 2個から購入可 |
| 3個 | 1,383円 | オレンジ箱 |
| 4個 | 1,804円 | ピンク箱 |
| 6個 | 2,679円 | 花柄の箱 |
| 8個 | 3,608円 | 花柄の箱 |
| 10個 | 4,352円 | |
| 15個 | 6,426円 |
※2個入りBOXは廃止となっています。最新の価格・在庫は、店舗またはお電話でご確認ください。
賞味期限:購入日から約1週間。要冷蔵。

電話一本で届く便利さも、いいものです。……でも、こうして少し手間をかけて手に入れるお菓子があってもいい。そんな気がしましてね。
まるさんの覚書
- 飾らない姿のまま、100年選ばれ続けてきたことが、このお菓子のいちばんの魅力。
- 時間とともにラム酒が生地になじみ、香りや味わいが少しずつ深まる。その変化も楽しみたい。
- 通販がないぶん、手に入れる時間まで、このお菓子の楽しみ。
- 個包装ではないので、手土産にするときは取り分け方に少し気を配りたい。

シンプルなお菓子ですけど……なんだか、後を引きますね。

わかります。派手さはないのに、また食べたくなる感じ。

ふふ。飾らないものほど、気づけば長い付き合いになっているのかもしれません。……そういうものが、私は好きでしてね。
カウンターには、空になったバラ柄の箱と、湯気の消えたコーヒーカップ。
子どもの頃はご縁がなかったものが、いつのまにか、誰かと分かち合いたくなる味に変わっている。きっと誰にでも、そんなお菓子や、そんな出会いが、ひとつやふたつ、あるのではないでしょうか。
「大人になって好きになったお菓子」覚書
- 六花亭 チョコマロン
- 喜久家洋菓子舗 ラムボール
この覚書に、またひとつ名前が増えたら、そのときは、またお話ししましょう。
あとがき
美味しいものには、不思議な力があります。
時が経っても記憶に残り、ふと誰かの顔を思い浮かべてしまう。
ラムボールは、そんな気持ちを静かに思い出させてくれるお菓子でした。
今夜のお話は、このあたりで。
また、ゆっくりお茶でも飲みにいらしてくださいね。


コメント